箱根の夜。とある小さな居酒屋にて。
「ダイジョウブデスカ?」
小さく開けられた扉の間から、男性が伺った。
それから、改めて扉が大きく開くと、続いて暖簾をくぐって来たのは五人連れの家族だった。
予期せぬその人数に驚いたのか、
「ガイジンかよ、めんどくせえな」そう思ったのか、
店の親父は、明らかに不機嫌な顔になって、
「うちはイザカヤだから、これしかできないから!」
メニューを男性へ突きつけると、そう言い放った。
インド系の家族だろうか。お父さんであろう男性は、タイガーウッズによく似ている。
お父さんはまあまあ日本語を解して、そんな店主の、半ば失礼な態度も意に介さなかった。
「ダイジョウブ、オネガイシマス」
大きな目で、笑顔を返していた。
そして、家族は揃って、居酒屋独特の雰囲気や料理を楽しみ始めた。
奥様、娘二人、弟一人。それは、僕の家族構成と全く同じだった。
一番上のお姉ちゃんは、もうだいぶ大きい。
四歳くらい離れているであろう、真ん中の女の子。
小さな男の子は、七歳くらいだろうか。
子供たちも、少しだけ日本語を話すようだった。
「なんだか昔の僕たちを見ているようだね。外国に暮らして、お父さんは片言しか喋れなくてさ。こんな風に、つっけんどんに扱われたりしたこともあったよな…」
僕は、一緒にいる妻にそう言った。
返事がない。
「あの男の子、だんだんRikiに見えてきたよ!」
返事が無い。
振り返ると、
妻はボロボロと泣いていた。
「ど、どうした!?」
彼女は、やはり返事をすることがなかった。
顔を覆ったまま、ただただ、涙を流すばかりだった。
僕は何も言葉を掛けることができなかった。
[妻の涙_d0036978_18512163.jpeg+]男の子は、僕たちのことが気になる様子で何度も振り返った。
涙を流す妻を、不思議そうに、そして心配そうに、見つめていた。
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